2017年8月15日火曜日

ボグダンと見た、月(貨物船の旅)



貨物船の旅で、船乗りさんとふれあうのは、
とても楽しいひとときです。

私たち乗客を、歓迎して、
書類、案内などのめんどうを、見てくださったのは、
ボグダンという、第3士官の方でした。

まだ、学校に行っている、23才くらいの、
ていねいで、優しい人でした。

ある日、
「今晩は、ぼくが、8時からウォッチだから、
ブリッジまでいらっしゃい。
もし、天気がよければ、星が見られますよ』と、

誘ってくれました。
ウォッチというのは、
建物の最上階にある、操舵室(ブリッジという)で、
見張りをすることです。

私たちは、
喜んで行きました。
一日中、海の風と、強い太陽にあたっていると、
夜は、早めに、眠くなります。
でも、その眠い目をがんばってあけて、
ブリッジに登りました。
天気は良し!
星がざくざく、見られるはずです。

ブリッジは、まず、
カーテンでしきった、地図室だけが、
最小限のランプで、地図をてらしています。
カーテンをちょっとよけてみると、
向こうは、まっ暗。

部屋を暗くして、目を闇に慣らさないと、
なかなか、夜の海は、見えないのです。
そんな闇の中、おじゃまじゃないか、と、
ちょっととまどいながら、
来ました、と、告げます。

学生士官の方は、船長さんがいらしたせいか、
まじめそうにしてますが、
クルーの、フィリッピンの見張りの方は、
ものすごく、気さくに、
「やぁ〜いらっしゃい!」なんて言って、おしゃべりしてくれます。

しばらくして、船長さんが、下に降りますと。

私たちを誘ってくれた下士官の方が、
さぁ、お見せしましょう、と、
お相手をしてくれました。

双眼鏡を貸してくれて、
「月をみてごらんなさい。
きれいだから!」と
ニコニコしています。
実は、目には良くないと言われているんですが、
私も、自分の小さなオペラグラスで、
月は、時々、ちょっとだけ、ながめています。

それを、
船乗りさんの、あの、強力な双眼鏡で、見たら、
目がつぶれるのではないか!と、
ちょっと心配でした。
でも、ボグダンは、ニコニコしているので、
のぞかせてもらいました。

ほほう!
これは、きれい。
双眼鏡で見る三日月は、
つるっとした形など、していません。
がさがさの、表面のせいで、
先っぽは、とんがっていません。

これは、
まさに、花王石けんのマークです!
三日月を、人の顔にたとえて描いた人は、
目が良かったのでしょうか。
たとえでも、想像でもなく、
三日月は、ほんとうに、そういう形をしていました。
びっくりしました。
月が、すぐそこに見えていました。


(こんな感じ)

さて、ボグダンは、
星が大好きだそうです。
「おおぐま座、こぐま座、見えたでしょう?!」と
目をキラキラさせています。

星が好きなんですねぇ、
私もなんですよ。

と、言いますと、

もっと若かったころ、
8月になると、
原っぱに、コートをしいて、そこにねころがって、
いつまでも、いつまでも星を見ていたんだ。
だって、ロマンチックなんだもん。

と、言っては、
また、仕事で、海を見ています。

彼、いい仕事を選んだなぁと、私は思いました。

たまに、フィリッピンの見張りの方の、

「あそこに、何か見えますけど、
あれは、月の光のせいでしょうかねぇ、
双眼鏡で、確認してみます」

なんていう声が、きこえます。
ハタから見てると、夜の海を見張る、という仕事は、
ロマンチックな作業に、見えます。
なるほど、
黒い水面は、一部分、月に照らされています。

夜空は、三日月のせいで、真っ黒ではなかったです。
真っ黒だったら、もっと星が、ざくざく見えるはずでした。
三日月は、もうじき沈むから、
もうちょっと待てばよかったのですが、
もう、眠くてしかたない夫につきあって、
おいとましました。

ほんとうは、
もうちょっと、そこにいたかったのです。
ボグダンのウォッチが終わる、12時まで、
ただ、そこに、いたかったなぁ、と思いました。
夫と、別行動にすればよかった、と、
ちょっぴり、後悔しています。



双眼鏡で見張って、もし、
レーダーにひっかからない漁師の船があり、あぶなければ、
コンテナ船は、ボゥーっと、霧笛をならしたりします。
車のクラクソンと同じです。

ある晩、
何度も鳴る、ボゥーっという音で目がさめました。
なにごとだろうと、
いそいで窓の外を見れば、
あたりは、夜の霧で、なにも見えませんでした。
なにも見えない中を、進んでいるのです。
自分の船のあかりが、ちょっぴり見えるだけです。
なんとも、不安な感じがします。

でも、
あぁ、ウォッチの方が、霧笛をならしている。
おかげで、私は安心して眠っていられるなぁと、
ベッドにもどりました。
なんだか、むしょうにやるせない、悲しげな霧笛のひびきでした。
そして、また、眠りにつきました。


きょうも、読んでくださって、どうもありがとうございました。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村




0 件のコメント: